パッシブヒーティング
パッシブヒーティング
 
 
阪南町の家 空のデッキから 阪南町の家
集熱・断熱・蓄熱
太陽や風力・地熱などの自然エネルギーを特別な機械装置を用いずに暮らしのエネルギーに利用していく手法を、パッシブシステムと言います。これに対して太陽光発電や風力発電、地熱発電などは同じ再生可能な自然エネルギーの利用であってもアクティブシステムと呼ばれて区別されます。
この章ではパッシブシステムのうち暖房に関する事、パッシブヒーティングについて取りあげます。パッシブな手法で暖房しようという場合、熱源になるエネルギーを何に求めるかでその手法も変わってくるわけですが、地熱利用による暖房なんていうのは簡単に利用できる地域も限られており、一般論として成り立ちませんので、ここでは地球上ならどこでも得られるエネルギー、太陽熱エネルギーを使ったパッシブソーラーシステムについてご紹介していきます。

太陽は、いまから約50億年後には超新星爆発を起こして星としての寿命を終えるそうですが、まあ、人間の時間尺度から言えば事実上、無限に存在するといっても過言ではないでしょうし、その降り注ぐエネルギーも尽きることなく永遠に存在すると考えても間違いではありません。
降り注ぐエネルギーは、地球から太陽まで平均1億4960万kmもの距離があるにもかかわらず、マイナス270度の宇宙空間に浮かぶこの地球を平均気温15度に保ってくれているほど莫大なものです。
このエネルギーを使わない手はありません。

でも地球全体が受け取るエネルギーは莫大なものであっても、その熱エネルギーは1平方メートル当たりにすれば、800W(680kcal/h)程度でしかありません。見方によっては結構あるともいえますが、これを建築の暖房に利用していくためには、うまく集めて夜間も寒くなく過ごせるように何かに蓄えておく手だてを考えなくてはなりません。
その手だてとして、いままで世界のいろんな場所で様々なシステムが考えられてきたわけですが、それらを学んでいく上で重要なキーワードが三つあります。
集熱・断熱・蓄熱の三つの言葉です。

  • 太陽熱エネルギーをどう集め、必要な場所にどうやって運ぶのか。<集熱>
  • 集めた熱を逃がさないため、どの程度断熱するか。どう換気するか。<断熱>
  • どこにどのような方法で、熱を蓄えておくか。<蓄熱>

これら三つの要素は互いに絡みあっています。たとえば効率よく集熱しても断熱が悪いと熱は逃げてしまいますし、断熱がよくても蓄熱部分が少ないと、日中は暖かくても夜間は冷え冷えとした空間になってしまいます。また逆に集熱性能が低いのに蓄熱部分が大きいと、低温安定状態といって日中でも寒い住まいになってしまいます。
パッシブソーラーシステムを考えていく上では、これら三つの要素をうまくバランスさせて計画していく事が大切で、これが基本中の基本になります。

様々なパッシブソーラーシステム
では実際にいままで、どんなパッシブソーラーシステムの手法が考えられ実施されてきたのでしょうか。代表的なものをピックアップしてご紹介しましょう。
ダイレクトゲイン
ダイレクトゲイン

最もシンプルな手法で、南向きの開口部を大きく取って、日射を室内に広く取り込む手法。
床仕上げを蓄熱性の高いタイルや石・土間などにする事で蓄熱も可能であるが、夜間冷え込まないようにするには、開口部から熱が逃げないような工夫が必要。
シンプルな反面、室内温度のコントロールは難しい。

付設サンルーム
付設温室・サンルーム

原理はダイレクトゲインの場合と同じだが、温室と室内部分の間に可動間仕切を設けたり、温室内の暖まった空気をファンで送風するような工夫をする事で、ある程度の温度コントロールも可能。
反面、夏場の日射遮蔽は難しく、オーバーヒートになりがちで、どちらかといえば高緯度地域向きのシステム。

トロンプウォール
トロンプウォール

南向きに取った開口部の直ぐ内側に、集熱面兼蓄熱面となる壁を建て、素材の熱伝達時間の遅れを利用して夜間の暖房に利用するシステム。ヨーロッパに実施例が多い。
夏場は日射を遮蔽する必要がある。
また、壁の素材にはコンクリートやレンガを使う場合が多く、室内の日照が取りにくいなどの課題も多い。

サーモフォン
サーモサイフォン

斜面などを利用し、ガラスや鉄板などの集熱面で暖めた空気を自然対流で床下に導き、床暖房を行うシステム。
床下面に蓄熱素材を用いたり、集熱面を蓄熱兼用とすることで、夜間暖房にも利用できる。夏場は集熱面の遮蔽が前提となるが、床下への送風経路の間に設けた排気口などから排熱し、給湯熱源に利用する方法もある。
温度コントロールも比較的容易で、理想的なパッシブシステムとしやすい反面、斜面や広い空地が必要で、日本の一般的な住宅地での実現は難しい。

OMソーラー
OMソーラー

原理はサーモサイフォンと同じながら、集熱面を屋根に設け、暖めた空気はファンを使って床下に送るようにした手法。蓄熱には床下コンクリートを利用するのが一般的。
屋根を集熱面とした事で、建て込んだ住宅地での使用も容易になり、またファンで送風量をコントロールできるため、かなり厳密な室温調整も可能にしている。
木造住宅の構造工法に馴染みやすく、パッシブソーラーシステムとしては建築棟数で世界一のシステム。

奥天神の家 家族の間
ダイレクトゲインの例  奥天神の家 家族の間  2006年12月4日10時25分撮影
大きく開かれた開口部からの日射しで暖められる床。ただし、杉板張りの床なので蓄熱性能はあまり期待していない。
2007年6月のサイトリニューアルに伴い上の実例写真を差し替えました。
OMソーラーシステム
さて、このようにパッシブソーラーシステムには様々なものがあるわけですが、ここでは私がよく使っているシステム、OMソーラーシステムを取り上げてご紹介します。
OMソーラーシステムは空気集熱式パッシブソーラーシステムのひとつで、建築家の奥村昭雄氏によって考案されたものです。室内の空気ではなく外気を集熱面で温め、床下に送って床暖房を行うという点に最大の特徴があります。つまり常に室内の換気を行いながら、頭寒足熱の体にやさしい暖房を可能にしているわけです。
しかも、その熱源は太陽熱という自然エネルギーが中心となるわけですから、外気を温めるという熱負荷の大きい暖房システムにもかかわらず、省エネルギーで環境負荷も低減できるという、世界でも類例の少ない優れたシステムと言えます。

下図は、OMソーラー住宅を設計する際に行う性能評価のシュミュレーションでの計算結果を表示した画像ですが、これを使って少し具体的に説明してみましょう。

シュミュレーション結果
OM Solar Simulation V.5.5 for Windows. copyright OM Solar Association.
日中、軒先から取り込まれた外気は、屋根下地と屋根仕上の鋼板との隙間を通る間に太陽熱によって温められます。このシュミュレーションの例では、軒先で9.4度の外気が、棟では38.4度になっています。
温められた空気はファンを使って立下りダクトから床下の空気層へと送られ、床一面に広がって床を温め、室温を心地よい温度に保つと同時に床下の基礎コンクリートにも熱が蓄えられます。蓄えられた熱は、夜間、周囲の空気の温度がコンクリートの温度より低くなると放熱されて、室内が冷え込むのを防いでくれるわけです。この例では、床中央部で床下の空気温度が30.2度、床の表面温度が25.4度、床下コンクリートの温度が26.3度になっているのが読みとれると思います。
床を温めた空気は床の吹出口からゆっくりと家全体へ廻り、床からの輻射熱と相まって、間仕切壁やドアで仕切られた部屋以外の室温を寒すぎず暑すぎず快適な室温に保ってくれるのです。住宅自体の断熱性能にもよりますが、1階床面が浴室や玄関を除いてほぼ全て蓄熱床面として利用できる場合は、総二階建ての住宅であっても家全体を温める全館暖房が可能です。
OMソーラーの空気流れ経路
曇や雨で太陽が出ていないときは、当然、太陽熱は使えませんので、そのような場合はシステムの中に組み込んだ補助暖房を使います。補助暖房では外気ではなく室内空気を循環させ、図ではファンの左に描かれているコイルにガスや石油のボイラーで温めたお湯を廻して空気を暖める方式が一般的ですが、住宅の規模などに合わせ、他にもいくつかの補助暖房方式が考えられています。

夏の日中は集熱面での空気温度が80度近くにもなりますが、それをファンで換気して屋根が焼けるのを防ぐと共に、先程のコイルに水を循環させてお湯を作る、お湯取り機能も備えています。地域にもよりますが、真夏ですと300リットルの貯湯タンクで60度前後のお湯が作れます。

以上がシステムの概要ですが、おわかり頂けたでしょうか。分らんとか、もう少し詳しく知りたいという方は、下記のリンクをクリックしてみて下さい。自然エネルギー研究所(旧名:OM研究所)ウェブサイト内にあるOMソーラーシステムの解説ページが別ウインドウで開きます。綺麗なグラフィックでわかりやすく解説されていてます。

http://www.passivedesign.com/omssys.htm

上 : システムでの空気の流れを追った写真−浅香の家
上から下へ
1 軒先の外気取入れ口
2 ガラス集熱面 温まった鋼板が風で熱を奪われるのを防ぐために棟近くの一部に取付けられる
3 屋根集熱面からの空気を集める棟ダクトの内部 工事途中での撮影
4 ファンとコイルが内蔵されたハンドリングボックス 施工途中
5 床下空気層 下は蓄熱体となるベタ基礎のコンクリート
ここで紹介した補助暖房やお湯取り機能を備えたシステムは、最も一般的でOMソーラーの定番といえるものです。
でも気候風土によっては、補助暖房がさほど必要でない土地もありますし、補助暖房を薪ストーブなどの他の暖房設備に置き換えたり、ローコスト化のためお湯取り機能を取りやめた事例もあります。
ある決まったシステムがあると、誰しもリスクを考えてあれもこれもと盛り込んでしまいがちです。また造り手側にしてもクレーム回避のために不必要なものまで勧めてしまう傾向は否めません。ですから、このような大掛かりなシステムを取り入れようとする場合、人の意見をよく聞く事はもちろん不可欠な事ですが、それに流されるのではなく様々な意見をよく咀嚼した上で自分なりの見識を身につけておく事が、お金だけでなく資源を浪費しないという意味からも大切な事です。
3階建木造住宅でのOMソーラー
大阪や京都などの市街地では長屋の建替えなど、狭小な敷地が多く、床面積を確保しようとすると上へ上へと伸ばしていくしか手がありません。このような立地条件であっても、私たちの事務所を訪ねられる方々の多くは、木の家で、しかもパッシブシステムを取り入れた住まいを望まれます。
木の家という要望に対しては、防火地域でない限り、3階建てまでなら木造で建築できますからクリアもできますが、問題はパッシブシステムの方です。
狭小な敷地のほとんどが住宅密集地で採光の確保さえままならないわけですから、ダイレクトゲインやサンルームなどのパッシブソーラーシステムは問題外です。
一日中、日が射すのは屋根面だけ。となるとOMソーラーシステムだ、となりますが、ここでも問題が出てきます。
前述のように、集熱・断熱・蓄熱は密接に関連していますから、断熱性能を高くすれば総3階建てでもOMソーラーシステムを使った全室暖房は可能ですが、実際には敷地の方位や斜線制限などの法的規制によって集熱屋根面を充分に確保することは難しく、集熱不足になりがちです。
また1階は車庫や玄関などの蓄熱床面として使えない部分に大きく面積を割かなければならず、いままで私が手掛けた木造3階建て住宅では全て、集熱面積に対して蓄熱面積が不足していました。
では、このような場合どうするのか。
素直に1階はパッシブシステムによる暖房を諦め、2階・3階のみを対象としたパッシブヒーティングを考えるのが最良の選択肢ではないかな、と考えています。2階床を二重床にしてその間に温めた空気を流す事で、蓄熱床にして暖房をしようというわけです。
でも2階床を蓄熱床にするとはいっても、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の場合は2階床もコンクリートで出来ているわけですからなんとでもなりますが、木造3階建ての2階床には蓄熱素材となるようなコンクリートは通常ありません。
もちろんコンクリートを敷設することは、技術的には可能なことですが、2階にそのような重いものが載っていると耐震設計の上で極めて不利となりますし、仮にそれを保たそうと思えば、1階は壁だらけになってしまい現実的ではなくなってしまいます。

こんな時に役立つのが、潜熱蓄熱材という蓄熱性の高い物質をポリプロピレン容器に封入したPCM蓄熱材です。
PCM蓄熱材は蓄熱式電気床暖房用に開発された材料で、コンクリートに比べて比重が小さく、また1枚当たりの蓄熱量も多いため床下全面に敷き詰める必要もありませんから、コンクリートの場合と同じ蓄熱量を取っても構造に対する負担がほとんど掛からないという利点があります。

右 : 阪南町の家 断面図
集熱屋根の幅は斜線制限のため1間半しか取れず、1階は図に見られる駐車場や玄関、浴室などに床面積の半分以上を取られてしまうので、ここでもPCM蓄熱材を使った2階蓄熱床方式が採用されています。

左 : 施工中のPCM蓄熱床
床下に置かれた白い板状のものと、手前に立てかけられている白い板がPCM蓄熱材。
1枚の大きさは600×250×20mm
PCM蓄熱材は物質が固体から液体になる時に熱を蓄え(これを潜熱という)、液体から固体になる時に熱を放出するという性質を利用して蓄熱・放熱させるので、床下に送られる空気の温度が蓄熱材の融点以上になっていないと効果的な蓄熱・放熱ができません。ここに掲載している一連の住宅で使われた潜熱蓄熱材の融点は27度ですが、前記のシュミュレーション図を見ると床の中央部までは床下空気温度が30度以上になっているので問題はありませんが、吹出口のある端部では25.3度となっていて融点までは達していないことがわかると思います。
このように立下りダクトから遠のくに従い床下の空気温度は下がっていくわけで、床下にPCM蓄熱材をどう配置すれば効果が高くなるのかが、設計上の課題になっています。
私自身はいままで4軒のPCM蓄熱材を使った住宅を手掛け、その度に様々な配置を試みてきましたが、各々の住まいで当然プランは異なり床の形状ももちろん違いますから、これがベストだという配置方法は見つかっていないというのが現状です。
2002年からはOMソーラー専用に融点を20度に下げたPCM蓄熱材が開発されて入手可能になりましたが、いい加減な配置計画だと立下りダクト周辺のPCM蓄熱材にばかり熱が蓄えられて、端部のPCM蓄熱材には潜熱としての蓄熱が行われないという結果になりますから配置計画の重要さには変わりありません。
ただ、たとえ全てのPCM蓄熱材が融点に達していなくても、コンクリートのような蓄熱素材と同様に顕熱による蓄熱量もあるわけで、あまり神経質になる必要もないかなとは考えていますし、事実、融点の高い蓄熱材を使用している4軒の住まい手の方からも、暖かく過ごしているとの好評を得ています。
まあでも、こんなページを作っている以上、そんな主観的な話ではなく客観的に部屋が暖かくなっている事を伝えなくては信用されませんよね。
というわけでOM研究所研究開発部門(当時)の協力・主導のもとに、PCM蓄熱床を使った2軒目の住宅で行った実測調査のデータをご紹介していきます。
この実測調査は住まい手の全面的なご協力を得て、入居後1年ほど経た住宅を使い、普段どおりに生活していただきながら各部の温度を計測したもので1999年2月23日から3月5日に掛けて調査したものです。
ここでは2月25日から28日までの96時間分のデータの内から一部を選んでグラフ化したもの掲載しています。
図をクリックするとグラフと解説のページが別ウィンドウで開きます。
PCM実測調査グラフ
計測機器
実測の様子

PCMに取り付けた温度を測るための熱電対

計測データを記録するデーターロガーとパソコン
このグラフに示されたPCM(蓄熱材)表面温度と床下空気温度は立下りダクトから50cm程度離れた計測点でのデータですが、25日と28日の日中はPCM表面温度が融点の27度を大きく上回り、潜熱としての蓄熱が行われた事が読みとれます。
また特に25日の夜から27日の朝に掛けてのPCM表面温度に着目すると、この間、表面温度は25度付近でほぼ一定していますが、これは潜熱蓄熱材の凝固点にほぼ一致していて、凝固点で温度が一定になるのは氷が融けて水になる時に、全て融けきるまでは零度を保ち続けるのと同じで、潜熱が解放され放熱されている事の証明になっています。
それに対して融点を少し超える程度にしか表面温度が上がらず、ほとんど潜熱蓄熱材が融けなかっただろうと推測される27日夕方からの温度変化は、ほぼ一定の割合で下降していて、この事は、日中、潜熱による蓄熱はほとんど行われず、夜間は顕熱による放熱しか行われなかった事を示していると読み取れるわけです。
少し難しい話になってしまいましたが、要するにこれだけ見ると、潜熱蓄熱材として十分機能しているように読みとれるわけですが、ここには掲載していない立下りダクトから2m程離れた場所でのPCM蓄熱材の表面温度からは、25日も28日も潜熱としての蓄熱は行われなかったことが判明しています。つまり、シュミュレーション図を使って説明した事とまったく同じように、ダクトから遠く離れるに従い潜熱蓄熱材としての効果が生かされていないという結果となりました。
けれども室温を見ると、夜間でも15度以上の室温を保っているわけで、全体的に見れば必要十分な蓄熱性能を持っていると言えますから、パッシブソーラーハウスとしては合格点が付けられます。住まい手の「補助暖房なんか使わなくても温かい家ですよ」という言葉を裏付けたもので一安心というところでした。
前述のように現在では融点20度のPCM蓄熱材が販売されていて、さほど神経質になることもないのかもしれませんが、これからもPCM蓄熱材を使うような機会があれば更なる工夫を重ねていきたいと考えています。

PCM蓄熱材は3階建木造住宅だけでなく、2世帯住宅などで2階建ての上下階共に蓄熱床にしたい場合や、リフォームで床下にコンクリートはないけれど蓄熱床は作りたいというような場合にも応用が可能ですし、既に取り組まれている設計事務所や工務店もいくつかあります。
また奥村昭雄氏がご自宅で試みられていますが、水を入れた20リットルポリタンクを床下に並べて蓄熱素材として利用する手法もあります。こちらの方はポリタンクの高さが35cm前後あるので2階蓄熱床での使用には向いていませんが、PCM蓄熱材に比べると値段も安く、リフォームなどの場合には最適かもしれません。

薪ストーブと暖炉
最後に、薪ストーブと暖炉についても簡単に触れておきたいと思います。

薪や炭を使う、薪ストーブや暖炉・囲炉裏・オンドルなどもパッシブヒーティングシステムの一手法と言えます。
近年、薪ストーブや暖炉は単なる暖房器具としてだけではなく、暮らしの場を演出する道具としても見直されてきています。また直に炎が見えることで精神的に安らぎを与えてくれる数少ない暖房器具としても着目されているようです。
薪ストーブと暖炉との違いは、薪を燃す火床の部分に蓋があって閉じられるか火床が開放されているかの違いですが、一般的には薪一本から室内に取り込める熱量は薪ストーブの方が勝っています。
ただ双方とも火を焚いて煙突から排気するという、強力な排気装置としての機能を併せ持つという点は同じで、排気装置である以上、吸気の方法もよく考えておかないと薪はどんどん燃えているのに部屋は冷え込んだままというような事になりかねません。

隙間風の多い家なら話も別ですが、断熱気密性能の高い住宅では必ず計画的に吸気口を設けないと厨房の換気扇やトイレの換気扇から薪ストーブや暖炉で排気された分の外気が入ってきて、居間は温かいのに厨房は外気温と同じ、なんていうことになってしまいます。
また高気密住宅のような場合は、そのような換気扇の孔にも外気が逆流しないような工夫がされていますが、その場合には燃焼に必要な空気が十分に得られず、薪の火付きが悪く炎もなかなか立ち上がらないというような事になってしまいます。
これを防ぐには暖炉や薪ストーブに近いところで吸気口を取るようにすれば良いのですが、単に孔を開けるだけでは冷たい外気がその温度のまま流入してきてしまいます。
そこで下左の写真のようにストーブ周辺に壁から少し離してレンガやブロックで作った遮熱壁を設け、壁と遮熱壁の間に外気を一旦導いてから室内に取り込む事で、ストーブや暖炉からの輻射熱を利用して外気を予熱するというような工夫が大切になってきます。
この阪南町の家ではさらに一工夫して、遮熱壁裏の空気取込口は外壁にではなく、薪置場として使う外部物置の中に設けています。(下右写真)
この物置には薪ストーブからの煙突が貫通していて、調達してきた薪をここにストックしておけば、輻射熱で薪の乾燥が促進されるだろうと考えました。当然、室内に取込む空気も、ここを通じて取り入れる事で、さらに余熱効果も高まるだろうと予想できましたから、このような工夫をしてみたわけです。外部からの物置への取込口は、写真には写っていませんが、物置ドアの欄間に開けています。
写真に写っている取込口には開閉ができるレジスターという蓋が付いていますが、これは夏場の湿った空気が遮熱壁の裏側に廻って、内部で結露を起こす事を防ぐために取り付けたものです。
ちなみに簡単な実測をしたところ、外気温10度、室温24度の時、室内吹出口での温度は17.5度前後でした。期待以上に効果があったと考えていますが、今後のためにも一度正確な実測調査をしたいと思っているところです。
外気吹出口と取入口
左写真: 右手の竪格子が外気吹出口 遮熱壁はコンクリートブロックに生石灰を塗ったもの
右写真: 右上が貫通する煙突 右下が取入口のレジスター

ここでは薪ストーブの例でしたが、吸気計画が大切なのは造付け暖炉の場合でも同じです。私自身はまだ造付け暖炉を設計する機会には恵まれていませんが、機会があれば、効率が良く見た目のデザインも素敵な暖炉を作りたいなと思っています。

そんな時に役立つ本が一冊。
奥村昭雄著 暖炉づくりハンドブック−その働きと詳細− 建築資料研究社刊 3900円

OMソーラーの考案者である奥村昭雄氏が書き下ろされたもので、これ一冊で暖炉のありとあらゆる事が全て分かるというハンドブックです。暖炉を住まいにと考えている方はもちろん、室内の熱環境について勉強したいという方にもお奨めの逸品です。
明々と燃える暖炉−阪南町の家
ダイレクトゲインの例や「3階建木造住宅でのOMソーラー」の中でも紹介した阪南町の家ですが、実はこの住まいのメイン暖房はこの薪ストーブ。これ一台で暖房面積約30坪のこの家全体を温める能力を持っています。
薪ストーブ Andersen Stove CI-8 8000kcal