気候風土を知る
気候風土を知る
 
 
極楽山浄土寺にて 浄土寺
気候を知る
パッシブデザインはまず建築しようとする地域の気候を知るところからはじまります。

北半球の温帯、ユーラシア大陸の東端にあって日本海と太平洋に挟まれた日本列島は、その希にみる地理的好条件によって四季の移り変わりを明確に持つ豊かな自然環境を作りだしてきました。
私も含め日本人はこの豊かな環境を当たり前のものと考えがちですが、これほど淡水資源に恵まれた緑豊かで温暖な環境は地球上でも希有な風土です。私たちはいままで、この豊かな風土に甘えるばかりで労りの気持ちなんていうものをどこかに忘れてきてしまったようですが、そろそろみんなが真剣に思い出さないと、とんでもない事になりそうですね。

まあ、その話は別の機会に譲るとして、総じて豊かな日本列島も北は北緯45度30分の亜寒帯性気候から南は北回帰線近くの熱帯性気候まで約2,450km、様々な気候風土に彩られています。
余談ですが日本列島って南北だけでなく東西にも結構長いんですね。理科年表で夏至の頃(6月19日)の日の出の時間を比べてみると根室が3時37分、那覇が5時37分と、実に2時間もの差がある。結構な時差です。
話を戻して。
そのように長い列島に、さらに地形条件や人工条件が加味されて土地土地の気候風土が形作られています。寒くて雪が多いところ、雪が少なく猛烈に寒いところ、夏と冬の温度差が激しいところ、比較的雨が少なくカラッとしたところ、雨がよく降るところ、一年中風が強いところ、夏と冬の温度差が少なく一年通して暖かいところ、都市化がもたらすヒートアイランド現象で夏とんでもなく暑くなるところなどなど、ほんとに様々です。

家づくりにも様々な工法があります。単純に住まいを高気密高断熱化して外界から居住空間を切り離し機械設備で恒温状態をつくり出す、まるで宇宙船か孵卵器のようなアクティブな住まいを考えるなら話は別ですが、庭や周辺環境にある程度は開いて自然を取り込もうとするパッシブな住まいづくりを志すなら、長年住んでいてわかってるよ、なんて思わずに、改めて自分たちが暮らしている気候風土ってどんなもんだろうと考えてみることが大切です。
そのように見つめ直し自分たちの土地以外の気候といま住む環境を比べる事で、自分たちの土地がどういうものかよくわかるようになります。そうして後、どんな住まいにしたいのか改めて考えてみれば、なにかおもしろい発見、住まいづくりへのヒントが見えてくるかも知れません。

下の図は私の事務所の隣接市、豊中市のAMeDASデータをもとに自然エネルギー研究所(旧名:OM研究所)がまとめた気象データです。1985年と1994年のデータを載せてみました。
いろいろなデータがグラフ化されていますが、注目して欲しいのは風向(上段の円状のグラフ)と平均気温(青色の折線グラフ)、それに降水量(水色の棒グラフ)と日射量(赤色と黄色の棒グラフ)です。

豊中 1985年
豊中 1985年
豊中 1994年
豊中 1994年
たとえばこの豊中市の場合、夏場は北東・南西・北西と三方から風が吹きますが、冬場は北西の風が大半を占めるているな、ということが読みとれます。このことから北東・南東に窓を取って北西にあまり窓を取らないようにすれば、夏は風が通り冬は風を防ぐ住まいができるかな、という事がわかってきます。また、比べるとわかりますが石垣島より夏の平均気温が高いというような酷暑なので、やはり冬の暖房ととも、なにか涼しく過ごす工夫をしなくっちゃ、なんて事も改めてみえてきたりします。
85年と94年の平均気温を比較すると94年の方が最大で2.5度ほど高くなってなっています。85年はエルニーニョ現象が発生して冷夏の年でしたし94年は空梅雨で猛暑の年でしたから、このデータだけを見てこの10年間で温暖化したというのは木を見て森を見ずな話ですが、手元にある10年間のデータを見ていくと地球全体の温暖化はともかく、少なくとも大阪では生活排熱の増大によるヒートアイランド現象の影響か、特に夏場の平均気温が高くなる傾向が見られます。

下のリンク先(追記参照)に日本を代表すると思われるようなアメダス地点を気ままにピックアップしてみました。こんな風に見比べていくと、なにか面白い発見があるかも知れません。
ここに掲げた地域以外の方々もお子さんの教材やインターネットなどを上手に活用すれば、地域の気象データを手に入れる事ができると思います。一度、調べてみられてはいかがでしょうか。

2007年6月追記
サイトリニューアル以前には、ここに本文にも記載の自然エネルギー研究所(旧名:OM研究所)及びOMソーラー協会製作による<OM気象データ 1985-1994 CD-ROM>から、北海道陸別・秋田県能代・新潟県十日町・神奈川県横浜・山梨県韮崎・大阪府堺・奈良県上北山・香川県高松・高知県宿毛・沖縄県石垣島の気象データ(1985年・1994年)を掲載していましたが、統計年が古く、また現在では気象庁のウェブサイトで気象統計情報が閲覧できるようにもなりましたので削除しました。

気象庁 気象統計情報
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/mdrr/index.html

風土をみつめる
冬の雪 春の桜
こうした気象データからもわかるように、日本には陸別のように1年のうち10ヶ月も暖房が必要な地域もあれば、石垣島のように平均気温が18度以下になることがほとんどないような島もあったりと、実に多種多様な気候条件の土地があります。
当然、気候条件が違えばその土地から得られる農産物も違いますし、産業や加工品といったものも違ってきます。

交通手段や情報伝達が乏しかった時代には、それらの土地ごとに得られる材料や産物を使って家づくりをするしかなく、その枠のなかでその地の風土にあった家づくりをしようと、様々な努力がなされてきました。
それらの素材は往々にして、その土地の気候条件に対処するには最良の材料ではなかったはずです。でも、そうだったからこそ人は考え、知恵を絞って様々な工夫を試み、その結果が積み重ねられて、その土地独特の風景、風土に根付いた建築を生みだしてきたと言えます。

今、交通手段が発達し情報があふれる時代になって、もはや建築は地域の素材のみに縛られることもなくなり、その風土や工法に適した素材を世界中から探し出し、あるいは作り出すことができる時代となりました。たとえ機械設備や工業製品に極力頼らないパッシブな家づくりであっても、そこに使われる材料や装置、その作り方の基本となる考え方は世界中のあらゆる地域から集められてきたものになっています。
現に私自身も塗料はドイツのものを使っていたり、いま取り組んでいるパッシブソーラーの体系はアメリカやヨーロッパでその基礎が築かれたものであったりします。 いいと思うものは出所がどうであれ取り入れていく。それは悪いことではありませんし、そんなところから技術的なブレークスルーも生まれてきます。 でも、まず大切なことは、自分の足下です。
夏の新緑 秋の紅葉
パッシブデザインにおいてOMソーラーをはじめ、いくつかの組織・企業が様々な形でパッシブな家づくり行っていますが、それら全国的なシステムに目を向ける前に、まずは身近にある風土に根付いた古民家などを見直す事が大切です。
ここで間違えないでほしいのはOMソーラーのような優れたパッシブソーラーシステムを否定しているわけではありませんし、事実、私自身もいままでOMソーラーシステムを取り入れた住まいを数十棟手掛けてきました。でも、そのようなある程度完成したシステムにいきなり頼ってしまうアクティブな方法ではなく、まずは自らの風土を考え、ほんとにこのシステムでしか自分の思うような住まいは実現できないのか、もっと簡単に暖かくあるいは涼しくすごす方法ってないんだろうかと考えてみる事が、より良いパッシブデザイン・無駄ののない住まいづくりに繋がっていきます。
そうして見ていけば、あっそうか、涼しくすごすにはこんな工夫があったんだとか、そんなに断熱性能がなくとも暖かくすごすには十分かも知れないとか、逆にこういうところを改善したり補ってやれば快適にすごせるようになるんだとか、いろんな発見があるかもしれません。
なにかが見えてきたり逆に疑問が湧いてきたら、こんな文章や書籍を読むのもひとつの方法ですが、いっそ気軽に地域の事に詳しい建築家とかパッシブソーラーに取り組んでいる人達に相談されてみるのも面白いやり方です。なかにはとんでもない「アクティブ」な輩に出会って不愉快な気持ちになる事があるかもしれませんが、それこそインターネットとか地域の情報源を活用していけば、気さくに答えてくれる人はきっと見つかると思います。それで、その人と意見や気が合うようなら、いっそ住まいの設計を頼んでみてもいいかもしれません。
きっと、風土に合ったパッシブデザインの、素敵な住まいができると思います。
時に厳しくもあるけれど、四季折々に美しい姿を見せてくれる日本の風土。 できうるなら、そこに建つ住まいの姿もまた風土の景観の一部でありたい。そこに暮らすことが風土を育てる事でありたい。 そんな気持ちを常に心のどこかに持つこと。それもまたパッシブデザインのひとつに違いない、と私は思っています。
大宇陀の民家と香住の大根干し
左: 奈良県大宇陀町 街道沿いの民家  右: 兵庫県香住町 冬の大根干し