緑と風と雨と
緑と風と雨と
 
 
加西の家 加西の家 食堂
風と視線を抜く
前章まではパッシブデザインについての大きな考え方でしたが、ここからはより具体的に住まいづくりの中での生きたパッシブデザインについてのお話をしていくことにしましょう。まずは建物の配置計画の話からです。

「気候風土を知る」の中で見てきたように、建物はそれ単体でこの世の中に存在しているわけではありません。風土はもちろんの事、街並みや隣家といった「外」と密接に関連しあって存在しています。敷地の状況を見極め、間取りや各部屋の繋がり、法規制といった与条件を満たしながら、「内」と「外」の関係を読みとっていくことが住まいの設計を考える上では最も大切なことです。
各部屋をどうのように配置し、何を見るようにすればいいのか。夏、風を通し、冬、風を防ぐには、どの方向に窓を開ければいいのか。どこにどんな樹木を植えればいいのかなど。AMeDASデータや風土の建築に学び、それまでの経験値を駆使して周囲の街並みの中での住まいの配置、プランニングを考えていくことが大切なのです。

上の図で見ていくことにしましょう。
前章の気象データで見ると豊中市に代表される北摂地域では、北西の風が多く、夏場には南西や北東の風がよく吹くことがわかります。また北に北摂の山並みが控え、南から南西にかけて大阪湾が広がる地形条件からも、このような風向きは類推することができます。ですから谷筋や建て込んだ住宅地でない限り、北西面を閉じて南西面や南面に開いた設計を行えば、冬場の風の吹き込みを抑えながら夏場は風通しのよい住まいをつくることができます。
西方向が開けたこの敷地では率直にこれらの事を取り入れ、厨房を挟んで居間と食堂をL型に配置することで、西風から南風まで風を大きく受け止める形にしました。
また、そうする事で食堂からは庭の長手方向を見通すことにもなり、奥行きを持った広がりのある空間を演出できますし、居間は食堂と座敷に囲まれ外部空間を内に取り込む形となって、庭とつながる落ち着きのある空間になります。

風を室内に取り入れる場合、取り入れ側に開くだけでなくその吹き抜けていく経路や最終的にどの辺りから風を抜くかという事も大切になります。
この計画案でもそうですが各部屋の入口を引戸にして夏場は開け放しにもできるようにしたり、欄間をオープンにする事で部屋から部屋へと風が抜けるようにしています。
視線も同様で空間から別の空間へと抜けるよう工夫する事で、実際の広さ以上に広がりのある住まいが生まれます。

他にも図が小さくわかりにくいかもしれませんが、浴室横の坪庭口には内側に鍵付き引戸の網戸を設けて常に風が抜けるような工夫や、下の写真でも実施例を挙げていますが、座敷前の濡縁西端に設けた袖壁や敷地の南西角に植える落葉樹で、西風や東風の風向きを変えて効果的に室内に風を導き入れるような工夫もしています。

この計画案のような郊外宅地は、まあ、どちらかといえば比較的敷地状況も読みとりやすいわけですが、いつもそうとは限りません。
建て込んだ市街地やビル・マンションなどの高層建築が立ち並ぶ一角、谷筋や盆地など敷地状況が読みとりにくく、単純に大きな開口部を設けるだけでは風を呼び込むことも、また内と外のつながりをつくり出すこともできないような敷地もあります。そのような場合、断面計画まで含めてよく考える事が重要になってきます。
いずれにしても敷地ごとに異なる様々な条件を的確に読みとり、各々の住まい手の要望に答える形で、画一化せずその時その場の答えを見つけだしていくことが、設計において、まず大切な事なのです。
■実施例による様々な工夫■
袖壁
風向きを変える袖壁

窓の近くに袖壁を設けることで、窓(左端の黒い部分)に対して平行に吹く風も室内に導けます。
写真で手前から奥に向かっての風だけでなく奥から手前に吹く風に対しても、巻き込み現象により効果があります。
生垣や立木によっても同じような効果が期待できます。

縦すべり窓
風向きをコントロールできる開き窓

引違い窓だけでなく開き窓を多用すれば、それだけで風を自在にコントロールできます。
写真は外部にアルミカバーを取り付けて耐候性を持たせた、マービン社製木製断熱サッシ。

園田の家
風の受け口をつくるデザイン

市街地などで敷地をいっぱいに使って建てるしかないような場合、斜線制限などの法規制の関係で庇も付けられないような状態になってしまいますが、そんな場合でも写真のように一部をL型に窪ませた外観にすることで、深い軒のある風を呼び込める空間をつくるができます。
それは道路からの視線を防ぎ、落ち着いた空間をつくる事にもつながります。

坪庭
風と視線の抜ける坪庭

町屋や長屋の建て替えなどでは周囲が建て込み風を抜くこともままなりませんが、坪庭などの中庭を設けるだけで室内の風通しは随分よくなり、内と外のつながりができて空間に広がりが生まれてきます。

緑をつくる
もみじ
配置計画のお話の中でも触れたように庭など身近な緑は、内と外のつながりを演出する上で重要ですし、敷地周囲の気温を下げてくれたり、通風のコントロールや地下への雨水の浸透など、私たちが快適に暮していく上で不可欠のものといえます。

左の写真は自宅近くのお寺でのスナップですが、このような豪奢な建築ではなくとも、緑がまわりにあるだけで、住まいもその美しさ一層増して、そこでの暮らしを豊かに変えてくれるはずです。

浅香の家のアプローチに設けたウノハナの生垣。道路からの目隠しと同時に緑を楽しむ簡単な工夫。
上2点は竣工当時(2000年3月)の様子 下は2006年5月の様子(写真提供:住まい手Kさん)
ウノハナの生垣
2007年6月のサイトリニューアルに伴い初出の写真(同じく浅香の家)から差替え
言うまでもなく樹木や草花には様々な種類があります。昔から日本にある草木だけでも膨大な種類にのぼりますが、近年では世界各地から実に多種多様な植物が園芸用として輸入され、各家庭の庭を彩っています。
けれども、植物種や植生もまた風土の一部なのですから、庭に植える草木もできる限りは日本に古くからあるものを選んで植えたいものです。
もちろん、それらの草木も元を辿っていけば原産地が中国大陸や朝鮮半島であったりする場合も多いわけですが、まあ、でも、せめて和名が付いていて漢字で書ける名前を持った草木を選ぶ事が、風土に根ざした住まいを作るという事からすれば重要な事なのではないか、と考えています。
我が家今の我が家
築40年の中古住宅。30坪弱の小さな家で、庭も写真に見るように狭いものですが、でも、植生は結構豊富。
野鳥も毎日のように姿を見せてくれます。
以下の写真は、その庭を彩る草花のスナップ写真です。先述のように漢字で書ける植物名の草木をできるだけ多く植えるように心掛けています。まあ、例外もありますが。
ロウバイ-蝋梅- ユキヤナギ-雪柳- ソメイヨシノ-染井吉野- ウンナンソケイ-迎春花- ニワナナカマド-庭七竈- シモツケ-下野- アジサイ-紫陽花- スイカズラ-忍冬- ドクダミ-十薬- ツルバラ-蔓薔薇- ムクゲ-槿- サルスベリ-百日紅- ノウゼンカズラ-凌霄花- ゴーヤ-苦瓜- オニユリ-鬼百合- フヨウ-芙蓉- ノギク-野菊- イロハモミジ-いろは紅葉- ナンテン-南天- センリョウ-千両-

植物園にようこそ!
とっても役立つ植物検索サイト: 植物園にようこそ!
雨水利用
緑とくれば、次は水のお話です。
蛇口を捻れば安全に飲める水がじゃんじゃん出てくる環境に育った私たちは、それがどんなに大切なものかということをついつい忘れがちです。
単に水道代を節約する意味だけでなく真水の貴重さを学ぶ上でも、雨水利用をしてみる価値はあります。
2000リットルの受水タンクを使った雨水利用の例

上の図と写真は工務店勤務時代に手掛けた住宅のもので、雨水を積極的に利用したいとの住まい手からの要望で、マンションなどに使われる受水タンクを転用した2000リットル(2t)のタンクを設けました。
北側の裏庭に置いて、切妻屋根の北面部分約 55m² に降る雨を集め、ポンプで送ってトイレの流し水と庭の散水に利用しています。

天水尊
ただ、このように2t程度のタンクを設けると、かなり効率よく雨水を貯める事ができる反面、装置も大がかりなものになりますし、当然工事費も高くなります。

庭への水まき用にという程度であれば左写真のような200リットルから250リットル程度の雨水タンクでも、十分役立ってくれます。
写真は雨水リサイクル研究所が製作している「天水尊」という雨水タンクですが、最近は各社から様々な雨水タンクも発売されています。また、不用になったドラム缶やポリタンクなどを転用すれば、下記の参考書などを手引きに、自分の手で作る事もできます。

雨水利用のお奨め参考書
やってみよう雨水利用  グループ・レインドロップス編著 北斗出版 2,000円